『私とは何か 「個人」から「分人」へ』を読んで。人間関係や生き方を「分人主義」で捉え直してみる

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メンタルヘルス

平野啓一郎さんの『私とは何か 「個人」から「分人」へ』を読みました。2012年の本なので10年も前だ。

発売当初から面白そうだなと思っていたのに、表紙の情報だけである程度わかったつもりになってしまったこともあり、未読のまま今まで来てしまいました。

で、実際、表紙にある情報だけでも思索のきっかけ・ネタとしてはとっても魅力的で、わりと楽しめてしまうのですが、やはり、読んだほうがいいです。表紙だけで面白い本は、読んだらその10倍面白いです。

分人は「ペルソナ(仮面)」や「キャラ」とは違う

分人とは何なのか、詳しくはもちろん本を読んでほしいんですが、とりあえず「ペルソナ(仮面)」や「キャラ」といったものではない、ということは記しておきます。

ペルソナにしてもキャラにしても表面的・演技的な雰囲気がありますが、分人はそういうものではなく、本当の自分です。

分人は1人の人間の中に何人もいるという話で、何人いても、どの分人も、「本当の自分」というのが、分人主義の考え方です。

本では分人とは何か、丁寧に論じてあり、平易に書かれているのでわかりやすいです。

嫌いな分人を縮小させて、好きな分人の比率を高めたい

ここからは個人的な(この本を読んだ分人的な)感想。

分人って相手とのインタラクティブなやり取りの中で出来上がっていくものだから、嫌いな人がいる場合、「その嫌いな人に対する分人」のことも嫌い、ということになりますよね。

「Aさんといるときのわたしはリラックスしているけれど、Bさんといるときはいつも嫌な気持ちになる」みたいな。

そういうのを、分人という考え方で捉えてみると、「嫌な分人の比率を小さくして、好きな分人の比率を高める」ことが可能だと気づきます。

足場となるような重要な分人を一時的に中心として、その他の分人の構成を整理することもできる。

P.91

一度、分人が生じている以上、それを容易に排除することはできない。しかし、関係を断てば、その分人が更新されることもなくなり、一日の中でその分人を生きる時間も減っていく。そうすれば、相対的に、他の分人よりも比重は低下していくはずである。

P.110

これまでの自分の人生で苦しかった時期を振り返ってみたとき、それはいつも、「嫌いな分人」として生きる時間が長くなっていたときでした。そういうとき、わたしは無意識のうちにその相手と距離をとることで分人を消滅させようとしていたこともありました。

本当の自分というのは結局、いろんな人との関係の中で生まれるいろんな分人の総合体なので、自分を好きでいたければ、自分の人生を良いものにしたければ、分人の比率をいい感じにしていく必要があるのですね。

そういう意味では、わたしは年々、付き合いのある人が良い人ばかりになっている気がするし、自分のことが前ほど嫌いじゃなくなったのは、(カウンセリングや通院のおかげもあるだろうけど)良い分人の比率が増えたのもあるのかもしれないな、と思います。

分人化の主体性を重視し、分人化を強制してくる人に敏感でありたい

先ほど「足場となるような」という表現を引用しましたが、これは母子関係にも通ずるもので、「アタッチメント」と言われますが、子どもは母親との関係性を足場として発達していきますよね。

アタッチメントが形成されなかった場合はその後の人生がなかなか大変になります。また、ヘンテコなアタッチメントが形成された場合も、けっこう大変です。

わたしの場合はおそらく、アタッチメントは形成されているけれど、ヘンテコなアタッチメントなのだろうと思うんです。で、そのアタッチメントを足場にして他の人との関係も作っていくものだから、ヘンテコな人を大事にしてしまったり、良い人をないがしろにしてしまうというような、「一生懸命に生きてるのにしんどすぎるんですが!!」っていう状況になってしまう。

これを分人の考え方で捉えてみると、足場となる分人(母に対する分人)のパターンが定着していて、そのパターンで分人化をさせやすい。そしてそのパターンというのが、わりと「自分を押し殺し徹底的に相手のニーズに合わせないといけない」みたいなのがベースになっているんですよね。書いてても地獄やな。

けど、先ほどの話にあったように、重要な分人を一時的な足場として、分人の構成を整理することはできます。

昔は分人化を強制してくるような人(相手のペースを尊重しない人)にも「合わせなくちゃ」と、強要された分人を受け入れていたのだと思いますが、今はまったくそんなことしたくありません。長年のクセで分人化させてしまうことは今後もあるかもしれないけれど、今は主体性を持って分人化するほうが多いし、変な分人が発生してもなるべくうまくコントロールして、分人の構成比率をいい感じにキープしたいな。

そして今後はもっともっと、分人化を強制してくる人など、「本来関わったら良くない人」との関わりを早々に(社会的な分人の段階で)ストップできるようになりたい。

まとめ

分人主義という考え方はおもしろく、平野啓一郎さんの文章がめちゃくちゃにわかりやすいこともあって、夢中になって読みました。

はじめは図書館で借りたんですが、手元に置いておきたくてあとから買い求めました。

話としては「相手に感謝しよう」とか「悪いことは半分相手のせいでもある」とか、道徳的なものも多いし、「嫌いな人とは距離を置こう」みたいなのも、普通のことやんってなるかもしれませんが、そういう話を「分人主義」という枠で考え直してみると、わたしはすごく面白かったです。

本書はお出かけの際の電車の中でちびちびと1週間ほどかけて読んだんですが、その1週間のあいだ、読んでいない時間も分人についていろいろと考えました。

こういうのを考えるのが好きな人にはぜひ読んでほしい。表紙だけで満足してたらだめやで。